【シネマニア】スリービルボード【Three billboards outside standing Ebbing ,, Missouri】

ROOM屈指の映画好きDJとして知られ
アートワークを手がけるDesignerでもあるDJ Diver。

そんな彼のシネマニア第3弾!!

まっさらな気持ちで見てほしい!人間臭さがぶつかり合う、極上のヒューマンドラマ。

最近やっと暖かくなってきましたね!
令和という時代を迎え、心機一転!という方も多いのではないでしょうか?

今日は、そんな皆さんの心に残る作品を紹介したいと思います。

マーティン・マクドナー監督の作品「スリービルボード(Three billboards outside standing Ebbing ,, Missouri)」です。

物語の舞台はミズーリ州の小さな町、エビング。主人公のミルドレッドは、町で唯一の小さな広告代理店に足を運びこう言います。

「街の外れの道にある3枚のビルボード(広告を出す看板)に広告を出すのはいくら?」

彼女が自費で出すことにした広告とは、エビング警察に対する”メッセージ”。
その内容は、彼女の娘をレイプして殺した犯人を未だに捕まえれない警察の署長ウィロビーへの抗議でした。

メンツを傷つけられた警察とミルドレッドの衝突を機に、物語は予期せぬ方向へと進んでいく…。

と、こんな物語です。
ストーリーだけを聞いてもどうなるかよくわかりませんよね?とにかく、是非見てください。
この映画、展開が全く読めません。

筆者もかなり映画を観てきましたが、その中でも相当よく出来た作品です。

考え抜かれた脚本、演出、構図のセンス、ストーリーの展開性、ドンピシャの選曲、、、とどこを取っても素晴らしい。

その中でも、一番この映画で飛びぬけているのが俳優陣の演技です。

アカデミー賞W受賞!限定された舞台で魅せる俳優陣の人間らしい演技の深み。

この映画の主演を務めるのは、フランシス・マクドーマンド。
コーエン兄弟の傑作「ファーゴ」でアカデミー賞主演女優賞に輝いた彼女ですが、今作でまた同じ賞を獲得しました。
娘を失くしながらも、女性としてナメられないように、強くも偏屈な女性の心情を見事に演じています。

そして、さらに今作ではエビング警察の警官役であるサム・ロックウェルもアカデミー助演男優賞に輝きました。
レイシストで完璧な「嫌なやつ」がとてもよく似合う彼の演技、是非注目して見てください…!

もうどれだけ俳優陣がすごいかわかりますよね。。。
彼らの演技がなぜここまで引き立つのか、筆者の考えでもありますが、
この映画では色々な無駄な要素が極限まで省かれているのです。
まずこの映画の舞台であるミズーリ州「エビング」ですが、何とそんな街は存在しません。
完全なるフィクションです。アメリカ丸出しの映画ではあるものの、小さな街という以上の情報は入ってこないのです。
じゃあなぜミズーリ州ではあるのか?それは、後に語りたいと思います。。。
さらに、この映画では年代がはっきりと語られません。80年代の雰囲気を醸し出しつつも、
あるシーンでは「ググる」というワードが出るので、現代なのですが。
こういった要素を削ることで、人間同士の駆け引きがより際立っているように思えます。
「人間性が垣間見えるように、ありのままにキャラクターを描いた」という監督の言葉通り、
この作品の登場人物たちは純粋に人生を生きています。彼はもともと劇作家だそうで、そういった背景が現れているんでしょうね。
「人間性が感じられると、完全な悪人も善人もいなくなるんだ。」彼はインタビューでそう続けています。
どんな悪い人も、良い人も皮を剥いてみると人間らしいところがあるものです。
だからこそ、この物語は先が読めずどうキャラクターたちが進んでいくのかが気になる。
監督は、それを「希望」という言葉にしています。この映画は彼が今まで作った映画の中でも最も希望に満ちた映画だと。
ちょっと難しい話になりましたが、 まとめると、要素が少ないから見やすく
人間らしさが浮き彫りにされ、人間味があり魅力的なキャラクターを描いた物語。
そんなジャンルがありますよね?そう、「西部劇」です。(まぁ、撃ち合うシーンはありませんが…。)
映画好きな人なら感じると思いますが、この映画はまるで西部劇のようなオールディで人間臭い魅力を醸し出しています。
おそらく監督はとても西部劇を意識して作っているように思います。

そういえば主人公のミルドレッドの服装、バンダナにつなぎの服って
クリント・イーストウッドと一緒やん。。(彼は頭には巻いてませんが)
彼女が出てくるシーンでかかっている曲もまさにウエスタン。
西部劇が好きな人も是非、この映画はおすすめです!

ミズーリ州を舞台に選んだ理由。アメリカ南部の歴史が紐解く映画最大のテーマとは。(ネタバレあり)

さぁ、この映画の魅力について本格的に話していきたいと思います。
ここからは、ネタバレありで書くことになるので嫌な方は是非鑑賞してから、この記事に戻ってきてください。。。

先述したように、この映画の舞台はミズーリ州。その理由とは、アメリカの歴史に紐づいています。
それは、南北戦争。アメリカ合衆国を脱退した南部7州と北部州の間で起こったこの戦争は、
人種差別というアメリカにおいて今なお残る問題にも繋がりました。
南部では、暴動や射殺事件が続き、人種差別問題は加熱の一途を辿りました。
2014年、丸腰の黒人男性が白人の警察官に射殺され、無罪になり暴動が起こったマイケル・ブラウン射殺事件が記憶に新しいですよね。
さらにトランプが大統領になったことでこの問題は近年さらに高まっています。YGの曲をかけたいですね。。。
この映画では、各所でそのような問題をイメージさせるシーンが多く出てきます。
レイシストである警官による弱者への暴力、復讐者による火炎瓶を使った抗議など。
人種差別という問題を今なお抱えるこの土地を舞台に、人々がいがみ合う。でもこの映画では、黒人男性がほとんど出てきません。
争っているのは全員が白人なのです。

これには、監督がイギリス人であるという点もあるでしょう。
アメリカという国を第三者的視点で捉え、人種間どころか我々人間は、全員が全員違うのが当たり前であり、
多様性が叫ばれている現在でも大事なことを見過ごし争いを続けているということを伝えようとしています。
ここで、一番に語りたいのは
作品の中でも存在感を放ったレイシスト警官のディクソン。気にくわない奴は脅したり、暴力で解決しようとするまさに嫌な奴。
結婚もせず未だに母親とボロい実家で暮らし、世の中に対して文句ばかり言う。

パトロール中には一人でよくわからない曲を歌っていたり、あるシーンでは「軍隊に行っていたんだが、国家機密で言えない。
ヒントだけやろう。砂っぽい場所だ。」そう言われても、場所がわからない…。そう、彼はバカなのです。

権力を振りかざして周りに当たり散らすが、実はマザコンのバカ。
彼は、まさに先ほど述べたことを体現しているキャラクターであり、物語での彼の変化こそ監督の言う「希望」に繋がるのでしょう。

主人公のミルドレッドが途中で見せる脆さも、その反対なのでしょう。

彼女は、娘を殺されその事件を解決できていない警察に職務怠慢だと抗議しますが
本気で思っているとは思えません。犯人に対する行き場のない怒りを、ぶつけることしかできなかった。

ディクソンもまた同じです。
ウィロビー署長の自殺。彼の自殺はキリストの生まれた「馬小屋」で行われました。
キリスト教において、最大の罪である自殺を最も聖なる場所で行う。これは、ウィロビー署長の罪を表現しています。
彼の起こしたこの「罪」によって悲しみを受けたディクソンが起こす暴力も、行き場のない悲しみをつけることしかできなかったのです。
つまり、ミルドレッドもディクソンも罪を犯されたことによって怒り、
盲目し、自分自身も罪を犯すが、その罪と向き合って、赦されていく。

そう、この映画の一番のテーマとは「罪と赦し」なのです。

復讐は復讐を生み、永遠に終わらない憎しみ合いが続く。そんなことはやめ、他人も自分自身のことも赦し合うべきだ。

まさに、いまだに続くアメリカの闇をユーモアを加えながらキリスト教観で捉え、
我々見る人の心に突き刺してくれる名作だと筆者は思います。

主演女優がアカデミー授賞式で伝えた言葉『INCLUSION RIDER』とは。ハリウッドが抱えてきた問題に迫る!!

先述した通り、主演のフランシス・マクドーマンドはアカデミー主演女優賞を受賞しました。
彼女は授賞式で感謝の言葉を伝えた後、トロフィーを床に置き会場にいるメリル・ストリープをはじめ、
たくさんの女優に呼びかけ彼女たちは立ち上がりました。(動画リンクが下にあるので、是非見てください。)

「私たちは伝えたい物語があり、資金が必要なプロジェクトがある。でも今夜のパーティーではそのことで話しかけないで。
近いうちにあなたたちのオフィスに招くか、あなたたちが私たちのオフィスに来てくれても良い。そこで全部話します。」

そして、彼女は最後にこう言いました。
「最後に、皆さんに伝えたい2つのワードがあります。INCLUSION RIDER。」そう締めくくり、彼女は舞台を降りました。

会場にいた関係者たちも??といった反応でした。この言葉が意味するものは何なのか。

後に行われたインタビューで彼女はこの言葉を「映画への出演契約をするときに、
少なくとも50%の多様性をキャストだけでなくクルーに求めることができるという仕組み」のことだと言っています。
彼女も1週間前に知ったばかりだったそう。

ハリウッドは近年様々な問題を抱えていました。
2015年から2016年の間、主演と助演の男女優秀候補にノミネートされた俳優が、
2年連続で俳優部門の20名がすべて白人だったことで、激しい批判を受けたアカデミー協会。

SNS上では、「#OscarSoWhite(オスカーが真っ白!)」という皮肉を込めたハッシュタグが流れたり、
有色人種の俳優たちが「我々は演技ができないのか?」といった意見が出て、授賞式に出ないボイコットまで起きていました。

また、2017年には大物プロデューサーによるセクハラ問題をある女優が暴露したことをきっかけに、
ハリウッドの女優たちが受けていながら黙っていた性的暴行やセクハラなどの弾圧に対して一気に声をあげ、
#metoo 運動が始まり、ハリウッドに蔓延していた闇が世間に暴露され、一大事となりました。

こういった問題を経て、ハリウッドそしてアカデミーは多様性という問題に向き合い変化していきました。
フランシス・マクドーマンドが言った「INCLUSION RIDER」にはこういった問題をもっと皆が知り、
行動を起こしていこうという意味が込められていたのです。

その効果もあってか、近年有色人種の受賞者も、女性の活躍も増えて来ています。
実際にどこまでこの問題が解決しているのか定かではありませんが、
アカデミーだけでなく我々の周りに置いても多様性という問題は無視できないものであり、
今一度真剣に向き合っていく必要があると感じました。

少し、話が大きくなりましたが…
そんな現代だからこそ「スリービルボード」は見る価値があり、深く胸に突き刺さる映画でもあります。
みなさん是非、鑑賞してみてください!
まだ準新作なので、ストリーミングサービスには出ていませんが、AmazonPrimeやAppleStoreでレンタルも可能です!

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ROOM

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