Kan Sano、Kick a Show、Michael Kaneko、TAEYO、The fin.と個性豊かなクリエイターが魅せる新感覚オンライン配信番組「STAYROOM」
大阪を拠点とするインドアフェス・WEBメディアが出掛ける「ROOM」が、
初のオンライン配信番組「STAYROOM」を公式YouTubeチャンネル上で配信した。
「STAYROOM」の元となる「ROOM」は、2014年に100人~200人規模のクラブイベントとしてスタート。
しばらくして、会場を3フロアで1000人近いキャパのclub JOULEに移し現在の“インドアフェス”という形態に。
アップカミングな国内アーティストや地元大阪に根を張るDJ、The AvalanchesやDimitri From Parisといった海外のアーティストまで、
幅広いラインナップが多くの人々の支持を集め、
2019年3月には、CIRCUS OSAKAとTRIANGLEも加えた2000人規模のサーキットイベントを開催し、成功を収めた。
また、そういった音楽アーティストのパフォーマンスを軸にしながら、
アパレルやヘアメイク、空間デザインやフードなど、
さまざまな分野のアーティスト/クリエイターのアイデアを融合させ、
オリジナルなクロスオーバーカルチャーを発信。
近年は「ROOM」にゆかりのあるアーティストとのトーク番組配信や
インスタライブを利用したコンテンツなど、オンラインを使った企画も積極的に実施してきた。
そんな、さまざまなカルチャー、クラブの熱量やオンラインならではの
魅力を自由に往来してきた「ROOM」が、よりオンラインに軸足を置いた配信番組が今回の「STAYROOM」だ。
その特徴は大きく三つ。
まずはサウンドや映像の質をブレなく伝えらえるメリットがあり、
空間を彩るうえでの自由度も高い、スタジオでの収録ライブを配信すること。
次に、ライブをするアーティストと、
先述したようなさまざまなカルチャーの分野で力を発揮しているクリエイターとのマッチングによる企画やトークがあること。
そして三つ目は、
収録配信後には、ZOOMを利用した出演者とMCとの生トーク配信を行うことで、
リスナーもその場で質問を投げることができる、参加型コンテンツがあることだ。
Michael KanekoがBee Geesの往年の名曲をカバー!
まずは今回ピックアップされたクリエイターの一人であり、
イベント全体の進行役も務めるMC Teteyan(ZIPANGU ONIGIRI)の挨拶から、
ライブのトップバッターはMichael Kaneko。
淡く爽やかな照明とともに、透明感のあるハスキーボイスがそっと鳴り響き、空間に溶け込んでいく。ふと窓の外に目をやると空。
再び視線を部屋に戻すとそこには海が広がるよう。日曜日の夕方、休日最後のリラックスタイムにこの上ない時間を演出してくれた。
Michaelはクリエイターとのマッチングではなく、自身のルーツミュージックとして、
Bee Geesの「How Deep Is Your Love」(1977年)のカバーを披露。
不滅のディスコナンバー「Stayin’ Alive」でも知られるグループが全盛期に放った最大のバラードヒットだ。
近年ではMaroon 5のメンバーでもあるPJ Mortonのバージョンもヒットしたので、
多くの人々が“聴いたことのある”曲だったのではないだろうか。
Michaelのソフトなグルーブのなかからメロディへの愛が溢れる声が、見事なはまったパフォーマンスだった。
トレンディなスタイリングで魅せる8曲収録の圧巻ライブ!
2番目のライブはKick a Show。
まずは、クリエイターの一番手となる、URBAN RESEARCH iDのスタリスト・Yuya Satoが、
彼とDJ Sam is Ohmの衣装を選び、着替えを済ませてそのままライブステージにインする流れ。
レオパードのシャツにブラウンのジャケットとパンツのセットアップという、
Kick a Showのイメージにぴったりでありながら本人も初体験だと驚く、
“その人らしさ”の可能性を引き出すコーディネートはさすがだ。
Kick a Showの配信ライブは以前にも観たことがあるのだが、
彼が声を発せば、Sam is Ohmが音を鳴らせば、画面越しでもその場の空気が一気に明るくなる。
足取りの軽いキャッチーなビートと語感に心が踊り出すとともに、そこに内燃する熱い衝動にグッとくる。
音楽とファッションが情熱とともに融合した、これぞ「STAYROOM」たらしめるパフォーマンスを披露した。
幻想的なサウンドとライブペインターが生み出す新たな化学反応
続いては、The fin.のライブに合わせて
パフォーマンスグループ・透明回線のメンバーとしても活動するペインター・SHUN NAKAOが1枚の絵を描き上げるという試み。
独特の浮遊感を持つThe fin.のアンビエンスを、SHUN NAKAOは「抽象的」とのちのトークで話していたが、
そのイメージに従ってあえて後ろ姿の女性を描くことで、観る者一人ひとりの想像力を広げるような、音と絵の相乗効果が素晴らしい。
「実はライブ中に描き終わるか少し心配だった」と話していたThe fin.のYuto Uchino。
しかし、そんなことを感じさせない音とペインティングに浸れるパフォーマンス。
代表曲「Night Time」からThe fin.のレパートリーのなかでは珍しいタイプの、
スタンダードなエイビートが力強く走り抜ける最新シングル「Over The Hill」で、最後はばっちり盛り上げた。
Taeyoung Boy期の名曲も収録した、メジャー移籍後初のライブ!
トリ前のライブはTAEYO。
マッチングクリエイターはイベント全体のMCであるMC Teteyan。
音楽、ファッション、食、そして街をこよなく愛する人一倍好奇心旺盛なMC Teteyanは、
“ZIPANG ONIGIRI”という、おにぎりをパーティや遊び場に広める活動で、関西では知られた存在(おにぎりもめちゃくちゃ美味い)。
誰もやったことのないことを形にしていくスタイルは、ある意味TAEYOや他アーティストと共鳴する部分もあるのではないだろうか。
二人はかねてから交流があるとのことで、トークの掛け合いにもほっこりする。
そしてTAEYOのパフォーマンスはとにかく強かった。
ヒップホップ/R&B/ポップスといったジャンルという概念が、シームレスになっていく様を体現するようなラップとメロディセンスは、
エッジィでモダンでありながらキャッチーな魅力も兼ね備えた、新世代のオーバーグラウンドシーンを牽引できる可能性に満ちている。
そして、それらの楽曲群をライブに落とし込む、TAEYOという人間そのものから発せられるグルーブや色気も圧倒的。
その進化が止まらない彼の未来が楽しみになる時間だった。
クロスオーバーを体現するミュージシャンKan Sano、興奮のライブセット!
ラストはKan Sanoが登場。
クリエイターには、Teteyan同様、ROOMとは関わりの深い、
大阪のヘアサロン・PARKiiiNGに所属するヘア/メイクアップアーティストのKazushi Matsudaだ。
Kan Sanoからのリクエストは“オールバック”。髪をうまく立てる、まとめる。
なかなかセットが決まらなくて鏡の前で四苦八苦した経験は、誰しも少なからずあると思うが、
その悩みを音楽配信ライブで解決できるという新しいタイプの共感性からの、トリを飾るにふさわしいパフォーマンスへの展開は、
“LIVEだけじゃ物足りない”と銘打った「STAYROOM」らしい、これぞ新感覚の流れだった。
オーセンティックなソウルやファンク、ディスコにエレクトロなど、時代やジャンルを超えた要素が混ざり合った、
スムースかつ唯一無二の濃厚な血が流れるKan Sanoの音楽性は、多角的な視点から新たな“クロスオーバー”を提案する、
「ROOM」のコンセプトにもっともはまるアーティストと言っていいだろう。
時にポップに、時に前衛的に、画面をさまざまな色に塗り替えていくようなサウンドのアンサンブルと、
ソフトタッチながらも耳に強くフックするメロディにうっとり。その余韻にいつまでも浸っていたい、そんな気分でブラウザを閉じた。
複数のアーティストとクリエイターをマッチングし、なおかつライブの尺も通常のイベント並にあり、その様子を配信するとなると、
事前告知と思いつくそれに近い前例だけでは想像がつかない部分も多かったが、実に興味深い内容だった。
ただ単にライブを観たり音源を聴いたりするだけでは見えてこない、アーティストの側面が引き出されていること。
そしてそれはオンラインだからこそできる内容であること。
それはきっと、誰かにとっては新しいカルチャーの扉であり、また誰かにとっては、
もう繰り返し触れてきた好きなアーティストの魅力にまた新しい光が当たった、そんな瞬間だったのではないだろうか。
「ROOM」は今後、オンライン上のコンテンツをますます強化、
そのなかで「STAYROOM」もしっかりアップデートして次回開催を目指すといのこと。
音楽とさまざまなカルチャーのクリエイターをマッチさせた今回から、2回目はどのような企画が盛り込まれていくのか、続報を待ちたい。
また新型コロナウィルスの状況を鑑みながら、フロアに観客を入れてのイベントを再開していくことも視野にあるとのこと。
“イベント”と“配信番組”、この2軸がどう混ざりクロスオーバーしていくのか、この先が楽しみだ。
Text:TAISHI IWAMI